【臨床で明日から使える!】関節不安定性から考える足関節背屈可動域制限

理学療法士として働く中で足関節背屈の可動域制限が問題となることは多いのではないでしょうか?
クリニックで働いていると捻挫後の固定期間により背屈可動域制限を呈する患者さんをよくみます
タマガワ
足関節背屈制限があると重心を前方に移動させることが難しくなり、様々な問題を引き起こします。
例えば
など、2次的な影響などを考えると様々な問題の要因になります。
では、足関節背屈可動域制限に対して皆さんは臨床でどのように対応しているでしょうか?
下腿三頭筋のストレッチをしています!
若手理学療法士
間違ってはないのですが、私の臨床経験上それだけでは、可動域が拡大しても不安定性が残ってしまったり、すぐに戻ってしまったりすることが多いです。
今回は、私が臨床で意識する足関節の評価と可動域制限因子についてお伝えしたいと思います。
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関節可動域の制限因子の種類
足関節背屈可動域の制限因子を考える前に、まず関節可動域の因子にはどのような物があるかしっておきましょう。
1.神経性・筋性
2.骨・関節軟骨性
3.関節包内軟部組織性
4.関節包外軟部組織性
5.筋の防御収縮
6.痛み
引用:富田 義之他 関節可動域制限因子の分類と評価法の試案
https://ci.nii.ac.jp/els/contentscinii_20180529221954.pdf?id=ART0007335646
※3関節包内軟部組織性⇒関節包・靭帯の拘縮や癒着による可動域制限
※4関節包外軟部組織性⇒筋・筋膜・皮膚の拘縮や癒着による可動域制限
可動域制限因子の種類は分かりました!でもこれってどうやって見分ければいいですか?
理学療法士
1の神経・筋性の可動域制限は自動運動上の可動域で見分けますが、その他の制限は関節のend feelで判断します
タマガワ
end feelの比較方法
end feelは主観的な評価で精度も経験により変わってきます。
可動域制限因子 | end feel |
骨・関節軟骨性 | 最終域でカチッと止まる |
関節包・靭帯 | 深部に筋よりも鈍い伸張感 |
筋・筋膜・皮膚 | 表層の伸張感 |
痛み・防御性収縮 | 最終域で急に止まる |
簡単に比べるとこのような感覚になります。
主観的な評価なので、経験を重ねて感じられるようにしていきましょう!
タマガワ
今回軟部組織性の制限因子に着目する理由は?
軟部組織性の制限因子に着目する理由としては
- 臨床上軟部組織性の制限因子による可動域制限をみる機会が多い
- 制限が可逆性で比較的短時間で徒手療法による変化が期待できる
- 筋などの癒着を解消することで、筋出力の向上も見込めるためその後のエクササイズに繋げやすい
ことなどがあります。
特に私も働いている外来のクリニックやスポーツの現場などでは、短時間で評価~治療を行い効果を出していかなければなりません。
そのため、効果の出やすい因子の1つとして軟部組織に着目する場合が多いです。
今回は臨床の1つの視点として軟部組織性の可動域制限についてお伝えしていこうと思います。
足関節背屈制限とは
足関節の背屈制限を考えていくために、まずは簡単に足関節の構造と機能を理解しましょう。
距腿関節の運動学的な特徴としては
- 内果が外果よりも上方にあるため、内反方向の骨性ロックが弱い(足関節回外位をとりやすい)
- 距骨滑車の前部よりも後部が広いため、適合性は背屈位で向上し、底屈位で低下する
- 背屈は足関節回内の構成要素であり、他の構成要素であるわずかな外転と外返しを伴う
という特徴があり、不安定性の出やすい底屈方向に誘導されやすい関節です。
距腿関節内の総接触面積は、膝と(1120㎟)股関節(1100㎟)ではそれぞれ1120㎟と1100㎟であるのに比べて比較的小さく、およそ350㎟である
出典:筋骨格系のキネシオロジー 508p
とも言われており、骨性の安定を得にくい構造です。
そのため中間位での背屈により脛骨と腓骨が作るほぞに距骨が十分にはまり込み、骨性の安定を得られることが理想です。
しかし足関節内側の軟部組織の拘縮などにより、距腿関節内側部の背屈制限が生じてしまうと、代償により過度な外転・外返しを伴った背屈となり、骨性の安定が得られず不安定な状態となります。
そうなってしまうと、足関節が底屈位~背屈位のどの位置でも不安定ということになってしまいますよね
タマガワ
足関節が不安定な状態で保たれると、荷重位で足関節周囲の筋が代償により過剰収縮し関節を固定しようと働くため悪循環が生じます。
そのため足関節周囲の軟部組織の滑走不全・マルアライメントを修正し、中間位で代償の少ない背屈位を獲得する必要があります。
足関節の不安定性に関わる要素の評価
不安定性の無い状態での関節可動域を考えていくためには、今の関節の状態や周囲筋の機能を評価することが重要です。
評価なしにいきなり治療に入ってしまうと、治療の前後での変化を追うことが出来ず、結果が良かったとしても再現性の少ない介入となってしまいます。
今回はROMexでの可動域評価以外で、私が足関節をみる際に必ず行う評価を2つお伝えします。
1.距骨のはまり込みテスト
足関節背屈制限とはの項目でお伝えしたように、足関節が最大背屈位で安定性を得るためには、距骨が中間位で脛骨と腓骨で作られるほぞにはまり込まなければなりません。
このテストで距骨が中間位でしっかりとはまり込めるかどうかをチェックします。
上記の肢位で足関節を最大背屈位にして、内外転方向にスライドさせます。
骨性にロックされず不安定性がみられる場合、陽性となります。
注意点として、力任せに背屈させてしまうと代償が入ってしまうため、end feelを感じながら最大背屈可動域を確認します
タマガワ
2.ウインドラスチェック
足趾のMP関節を完全伸展した際に足底腱膜の張力が保たれているかをチェックします。
足底腱膜の張力が保たれていない場合、足底の内在筋・外在筋がアーチ支持の二次的な力源として過剰に使われます。
後ほど説明しますが、足底の外在筋特に長母趾屈筋の短縮は距腿関節内側部の背屈制限の要因の1つになります。
そのため足底腱膜の張力を評価することは必要です。
足底内外側の張力が均等に保たれているかをend feelで確認することも重要です
タマガワ
評価から考える足関節背屈制限因子
上記の評価で不安定性があるとなった場合に、そのまま足関節背屈の可動域を出そうとしても正常な可動域を獲得するのは難しいです。
そのため、関節運動が正中位で行えるように制限因子の修正が必要になります。
上記評価から考える制限因子の1例を紹介していきます。
制限因子の要素は治療効果の向上のため少し細かく紹介します。触診の本やアプリなどで場所を確認してみて下さい!
タマガワ
オススメアプリ▼【ヒューマンアナトミーアトラス】
https://play.google.com/store/apps/details?id=com.visiblebody.atlas&hl=ja
距骨内側部の後方滑り制限
足関節不安定性の要因の1つである、距腿関節内側の背屈制限は距骨内側部の後方滑りが制限されて生じます。
そのため、評価1.の距骨のはまり込みテストも内転方向の不安定性が多くなります。
▼は距骨内側部の後方滑り制限因子の1例です
・長母指屈筋、長趾屈筋、後脛骨筋の短縮
・ヒラメ筋と上記3筋の滑走不全
・腓骨筋群と長母指屈筋の滑走不全
・屈筋支帯の滑走不全
・足底交差部(長母指屈筋・長趾屈筋)の滑走不全
・ Kager’s fat pad(アキレス腱前方の脂肪組織)の柔軟性低下
・前脛骨筋と長母指伸筋の滑走不全
・腓骨筋と長趾伸筋の滑走不全
特に長母指屈筋は内果の後方から距骨後方を通って、下腿外側に走行するため直接的な制限因子となりやすいです。
引用:運動器疾患の「なぜ?」がわかる臨床解剖学 173p
Kager’s fat padと足関節背屈制限因子との関係は▼の文献からどうぞ
https://www.jstage.jst.go.jp/article/thpt/28/0/28_103_2/_article/-char/ja/
距骨の可動域改善後は自動での足関節背屈エクササイズを行いましょう!
足部の外転・外返しで過度に代償して背屈してきた人は足趾の伸筋(特に長趾伸筋)で背屈してくる傾向にあるので、足趾伸展を抑制して前脛骨筋で背屈する練習をすると効果的です。
足底腱膜の張力低下
評価2.のウィンドラスチェックの部分で前述しましたが、足底腱膜の張力が保たれていないことにより、足部内・外在筋の過用が起こります。
足部内・外在筋にストレスが掛かり続けることにより、短縮や機能不全を起こし、距骨後方滑りの制限の1因となります。
▼は足底腱膜の張力低下の要因の1例です
・足底筋膜と小趾外転筋の滑走不全
・足底筋膜と母趾外転筋の滑走不全
・足底腱膜と短母趾屈筋の滑走不全
・足部内在筋の短縮・機能不全
・長母指屈筋・長趾屈筋の短縮・機能不全(周囲組織との滑走不全)
私の臨床での所見では、ウィンドラスのチェックをした際に内外側の張力差をend feelで感じ、張力が失われている部分を修正すると改善に向かう傾向にあります
タマガワ
滑走不全修正後はタオルギャザーなどのエクササイズを行い、足部内在筋の機能不全に介入しましょう!
タオルギャザーはIPの屈曲だけで行おうとする人が多いので、MPも屈曲させてアーチを縮めるようにすると効果的です。
まとめ
今回は足関節の不安定性と背屈可動域制限の関係性と修正ポイントについてお伝えしました。
- 足関節の不安定性が解消されないまま、ストレッチなどで可動域を広げても周囲筋の過用により元に戻りやすい
- 不安定性を取り除くためには、距骨の後方滑りが必要(特に内側が制限されやすい)
- 足底腱膜の張力低下により、足部内・外在筋のストレスが上昇し可動域制限の要因になりやすい
もちろん不安定性が解消されても、下腿三頭筋の短縮などがあれば可動域は制限されるため、ストレッチも必要です。
またスポーツなどで足関節のテーピングなどを行う場合は、距骨がはまり込んだ位置で巻くと安定性が全然違いますよ!
是非試してみて下さい。
最後までご覧いただきありがとうございました。
次回の記事もよろしくお願いします!